第52回 解析セミナー

最終更新日: 2008年11月17日

日時:  11 月 28 日(金) 15:00 〜
場所:  愛媛大学理学部数学棟2階 大演習室
講師:  中西 賢次 氏(京都大学・理学研究科)
題目:  調和写像の Schrödinger 及び熱流における漸近安定性と永久振動集約
要旨:   2次元全平面から球面への Schrödinger map,heat flow,及び Landau-Lifschitz-Gilbert 方程式 について,zm の形の調和写像に回転共変でエネルギーの小さい初期摂動を加え,時刻無限大での挙動を調べる.
 この問題は回転数 m が 4 以上の場合には Gustafson-Kang-Tsai によって既に漸近安定性が得られているが,回転数が低いと調和写像の空間無限遠での収束が遅いため,分散性(または拡散性)の摂動部分との長時間相互作用が大きくなり漸近挙動の制御が難しくなる.技術的には,解の調和写像と摂動部への直交分解と,線形化作用素の分散性評価の非整合という問題として現れる.我々は解の分解操作を空間局在化し,それによって固有空間との非整合から生じる誤差を部分積分で繰り込むというアイデアで,回転数 3 の場合に漸近安定性を証明する.
 さらに heat flow で回転摂動が無い場合は,回転数が 2 でも漸近安定性を示せる(1 の場合は有限時間爆発する事が知られている).ただし 3 以上ではどれか一つの調和写像へ収束するのに対し,2 の場合はスケール変換で得られる 1 パラメータ族全体として安定であり,時刻無限大で
  A) 一つの調和写像へ収束,
  B) 空間原点へ集約(ターゲットでは北極),
  C) 空間無限遠へ集約(ターゲットでは南極),
  D) 原点へ集約する時間列と無限遠へ集約する時間列が共存,
の全ての場合が存在する.実際,スケールパラメータの漸近挙動は初期値を用いた具体的な積分で表せる.さらにこれら全ての漸近挙動は,エネルギーの意味で可積分より僅かに局在的な摂動に対して安定である.
 下の結果は熱流に限られるが,大円への制限以外の手法は共通している.(D) のように集約・離散を無限に繰り返す現象は,一般にスケール臨界の非線形分散性方程式で大きな解の解析において最も問題となるシナリオである.これまでその排除に成功した例はいくつもあるが,実際に起こる場合は知られておらず,その点からも興味深い.(Gustafson, Kang, Tsai との共同研究)